なぜ取扱説明書が必要か?

製品を購入したときに、必ずと言っていいほど取扱説明書が添付されています。

しかし取扱説明書を読まないで製品を使用している人はユーザーの約半数におよぶという結果が報告されています1
また最近では「断捨離」や「ミニマリズム」という言葉とともに(特に紙の)取扱説明書を捨てることを推奨するような記事を目にします。

取扱説明書は困ったことがない限りは頻繁に読むものではないので、思い切って捨ててしまうというのも理解はできます。
さらにスマートフォンなどは取扱説明書を同梱すらしていないものも見受けられます。

そこで今回は取扱説明書がなぜ製品に添付されてきたのか考えていきたいと思います。

そもそも取扱説明書は何のためにある?

取扱説明書には次のような役割があります。

  • ユーザーに製品の正しい使用方法を理解してもらう。
  • ユーザーが製品の使用で困ったときに問題を解決できるようにする。
  • ユーザーに製品を安全に使用してもらう。
  • ユーザーに製品のリスクを知ってもらう。
  • ユーザーに製品を適切に手入れや廃棄を行ってもらう。
  • 製品の責任の主体と保証内容を明らかにする。
  • 問い合わせ窓口の所在を明らかにする。
  • 製造物責任法(PL法)における「指示・警告の表示」の要件を満たす。

特にPL法の「製品の欠陥」について消費者庁は次のように定義しています。

一般に、欠陥は次の3つに分類することができます。
【1】製造物の製造過程で粗悪な材料が混入したり、製造物の組立てに誤りがあったりしたなどの原因により、製造物が設計・仕様どおりに作られず安全性を欠く場合、いわゆる製造上の欠陥
【2】製造物の設計段階で十分に安全性に配慮しなかったために、製造物が安全性に欠ける結果となった場合、いわゆる設計上の欠陥
【3】有用性ないし効用との関係で除去し得ない危険性が存在する製造物について、その危険性の発現による事故を消費者側で防止・回避するに適切な情報を製造者が与えなかった場合、いわゆる指示・警告上の欠陥
消費者庁「製造物責任法の概要Q&A」よりhttps://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/other/pl_qa.html#q9

このように取扱説明書は単なる「製品の『取扱』方法を『説明』する書類」ではなく、ユーザーにリスクの存在を知らせ、事故を回避させるという重要な使命を持っています。

PL法における警告の表示とは

メーカーはユーザーが安全に使用できるように製品を設計しなければなりません。
しかし設計ではリスクを完全に排除することはできません。
また製造過程によってリスクが発生する場合もあります。

設計と製造の段階で排除できなかったリスクをユーザーに知らせる

この残存したリスク情報をユーザーに適切に与えないときに「指示・警告上の欠陥」とみなされます。

取扱説明書が同梱されていないけどそれはいいの?

ガラケー時代には分厚い説明書が入っていたものですが、最近のスマホには簡単な説明書きが書かれた紙が入っているだけになりました。

取扱説明書に関する規格のJIS B 9719(2022)によれば、説明書の発行の形態は紙でなくともよいことになっています。

例えば企業のホームページであっても問題ありません。

スマートフォンの説明書の例:https://support.apple.com/ja-jp/guide/iphone/welcome/ios

電子マニュアルの特徴

電子データの説明書は視覚や聴覚を利用できます。
製品がユーザーのもとに届いてからバージョンアップが行われる場合は電子データのほうが有利です。

膨大に伝える情報がある場合には検索機能が利用でき、ユーザーが知りたい情報に素早くたどり着くことが可能です。
ただしユーザーは知りたい情報だけを調べるため、メーカーから伝えたい注意点は伝わりにくくなるおそれがあります。

また当然ですがデータを閲覧できるデバイスが必要です。
説明書を読もうとしたときに、ユーザーが読むことができる環境があるかは配慮すべき点です。

紙の取扱説明書の特徴

紙の説明書は視覚のみを利用できます。
動画マニュアルのように動的な視覚情報は利用できませんし、音声を使用することもできません。

紙は実体があるので破れや汚損などの物理的な損傷は避けられません。

一方で説明書を製品に同梱さえしておけば、ユーザーは必ず目にすることになるという点が最大のメリットです。
またインターネットや動画を再生するデバイスが使用できないユーザーに対しても、説明書の情報を知ることができます。

DTP(出版物を作成するソフトウェア)は紙媒体と電子媒体を同時に作成することができるので、電子マニュアルの特徴である検索性などは補うことも可能です。

家電製品など、説明書に書かれている内容が容易に変わらない製品に向いています。

まとめ

取扱説明書はユーザーに製品の使いかたを教える道具だけではなく、ユーザーの命を守るための書類です。
またユーザーが困ったときにどうすればよいか手引する役割もあります。

ユーザーとしてご覧いただいている方は、ぜひ取扱説明書を捨てるまえに電子化するなどして保存してみてはいかがでしょうか。

また取扱説明書の執筆に携わっている方は、説明書をより保管していただきやすくする方法を一緒に考えていきたいと思います。
コメントなどを残していただきますと幸いです。

注釈

  1. (一社)PL研究学会「使用者における取扱説明書実態調査」よりhttps://aplics.sakura.ne.jp/ronbun/202009.pdf ↩︎

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

その他

前の記事

Hello world!